現在の精神科医療における外来治療と地域生活支援は重要な機能として位置づけられています。こうした趨勢は当事者のエンパワメント(本来当事者が持っている力を発揮し伸ばす支援)こそが治療、回復に欠かせないという普遍的な視点に基づくものです。
日本の精神科医療は社会防衛の観点から患者を隔離する政策を繰り返してきました。しかし薬物療法中心では回復できない依存症医療は、当事者の力を基にした治療と回復のプログラムを組み立ててきました。これは現在の趨勢を先取りする取り組みであり、当院は東北地方でその一翼を担ってきました。
依存症のみならず、統合失調症、うつ病等あらゆる精神障碍の領域に患者自身が持っている力を尊重する取り組みが広がっています。病気を治療することが病院の目的であり、その延長上に当事者の健康で幸せな生活があります。しかし病気や症状が改善してもしなくても当事者の生活は続いていきます。よって精神科医療では症状や病気との共存も重要なテーマです。
地域支援の目的は、地域関係機関、団体との連携を強化しながら、地域での回復のためのコミュニティを形成することにあります。
「被災地支援」
東北会病院では2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴い、県内の沿岸部被災地を対象とした支援活動を継続しています。
被災地支援は当院が専門としているアルコール関連問題をはじめとする依存症を中心に地域支援者を支援することが目的です。
なおこの被災地支援は「みやぎ心のケアセンター」との連携によって行われています。
アルコール関連問題 災害支援活動概要
ステージ | ||
目的 | 活動内容 | 対象 |
一次予防 | ||
教育啓発 |
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一般市民、支援者 |
二次予防 | ||
早期発見早期介入 | 支援者支援
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保健師等の行政職員、生活支援員、他地域支援者 |
三次予防 | ||
再発防止 |
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保健師等の行政職員、生活支援員等の地域支援者、地域医療機関、相互支援グループ |
災害支援実績
これまでの東北会病院の災害支援活動は2012年4月以降みやぎ心のケアセンターとの連携を中心に行われてきました。
当院ではアルコール関連問題の災害支援として支援者支援を柱にした方針を立て、災害支援会議と被災地事例検討を継続しています。
震災直後から2015年12月までの4年9ヶ月の支援活動実績を年度別支援件数で示したものが図1です。支援関連で出向いた件数をカウントしたものであり、総支援件数は620件、延べでスタッフ動員数は1236人となります。
図2は出向いた地域別件数のグラフです。
南三陸町は被災者生活支援員等の支援者支援を定期的に継続し、気仙沼市では自助グループ設立支援等で定期支援を継続中です。
東松島市は個別訪問や事例検討を行ってきました。これらの沿岸地域の支援はみやぎ心のケアセンターとの連携で行われています。
支援種類別件数を表したものが図3です。
図4は支援種類別の率を円グラフに示したものです。
支援に伴う事前調整や協議が支援の要であり、地域ネットワークの柱の活動になっている。
2013年は技術支援の要望が高まり支援者研修が伸びる結果となりました。個別訪問、相談件数は東松島支援での実績が反映したものです。
主な支援内容を年度別に比較したものが図5のグラフです。
震災初年度は啓発チラシを被災地の関係機関に配布しながら、状況把握のための調査と現場から出た要望にとにかく応えることに努めました。
2012年度はアルコール関連問題の掘り起こしが進み、被災者個別訪問、相談や事例検討の数が増加しています。その流れを受けて地域支援者の技術習得の要望が高まり、2014年度の研修の伸びにつながっています。
図6~図9は年度ごとの支援種類の比率です。
「院外での活動」
広報啓発活動
東北会病院では依存症や家族問題および精神保健に関する啓発を目的に行政機関や関連の団体から依頼を受けて研修・講演等の講師を派遣しております。
地域連携活動
依存症からの回復にはセルフヘルプ・グループ(SHG:相互支援グループ)の存在が欠かせません。
東北会病院ではアルコールのSHGであるA.Aや断酒会をはじめとする各相互支援グループと連携し、院内でのSHG開催や新規立ち上げ、イベントなどに協力しながら、地域での回復を支えるネットワークづくりを行っています。
地域で当事者の支援に当たる支援者との連携も重要であり、当院では県内各地の保健福祉事務所からの依頼でリカバリー支援部のソーシャルワーカーが定期的にアルコール相談に応じています。ここでは個別での家族相談も行われています。